
ドローンで農薬を散布するには、航空法(飛ばし方のルール)と農薬取締法(農薬の使い方のルール)の両方を守る必要があります。この記事では、農林水産省と国土交通省の公式情報をもとに、必要な手続き・使える農薬・散布のときに守ることを整理します。
講習費・機体の価格・散布の受託料金などの数字は、根拠を確認できる資料が見つからなかったため載せていません。
この記事の結論
- 農薬の散布は、航空法の「危険物の輸送」「物件の投下」にあたり、原則として国の承認が必要です。
- 2026年3月23日から、機体認証を受けた機体・技能証明・関係者の農地での散布・地表や作物から4m以下などの要件をすべて満たせば、承認が不要になりました(飛行計画の通報と飛行日誌は必要)。
- 使えるのは、使用方法に「無人航空機による散布」などとある農薬です。使用方法が「空中散布」だけの農薬は使えません。
- 散布の前には、周辺の学校・病院・家屋・養蜂家・有機農業のほ場などへの情報提供が必要です。
- 承認を受けて散布するなら、特定団体の資格は義務ではありません。承認不要の特例を使うには、国家資格(技能証明)が必要です。
ドローンの農業での使い道
| 使い道 | 内容 | 主にかかわるルール |
|---|---|---|
| 農薬の散布 | 液剤や粒剤をドローンから散布する | 航空法(危険物の輸送・物件の投下)、農薬取締法 |
| 肥料・種の散布 | 肥料や種をまく | 航空法(物件の投下にあたる場合がある) |
| 測量・生育の確認 | ほ場を撮影して、地形や作物の状態を把握する | 航空法(場所や飛ばし方によって許可・承認) |
撮影による測量はドローン測量の仕事の始め方で解説しています。この記事では、手続きが多い農薬の散布を中心に説明します。
航空法で必要な手続き
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 機体登録・リモートID | 100g以上の機体は必須。登録記号の表示も必要 |
| 飛行の承認(危険物の輸送・物件の投下) | 農薬の散布では必要。散布予定日の少なくとも10開庁日前までに、DIPSなどで申請する |
| 飛行の許可(場所によって) | 人口集中地区(DID)の上空、空港周辺、150m以上の空域などで飛ばす場合 |
| 飛行計画の通報 | 特定飛行なので、DIPSで飛行計画を通報する |
| 飛行日誌 | 特定飛行なので、飛行日誌を備える |
機体を30m以内のひもなどでつなぐ「係留」の特例を使っても、農薬の散布に必要な危険物の輸送の承認は省略できません。
2026年3月23日から:要件を満たせば承認が不要に
国土交通省は2026年3月23日、農薬などの空中散布で、決められた要件をすべて満たす場合は夜間・目視外・30m未満・危険物輸送・物件投下の承認が不要になる取り扱いを定めました(航空法施行規則第236条の82第1項第2号)。主な要件は次のとおりです。
| 項目 | 主な要件 |
|---|---|
| 機体 | 第一種または第二種機体認証を受けた機体(危険物の輸送や投下に適した装備などが確認されたもの)。夜間・目視外・30m未満は総重量25kg未満に限る |
| 操縦者 | 機種の限定つきの一等または二等の技能証明。25kg以上の機体は重量の限定解除、夜間・目視外はそれぞれの限定解除が必要。散布の練習(水などで5回以上)も求められる |
| 場所 | 関係者が所有・管理し、現に使っている農地や森林(一体で使う農道・林道を含む)。多数の人が集まる催しの上空は不可 |
| 高さ | 地表・水面・作物の上端から4m以下 |
| 機能 | ジオフェンスと、自動帰還・自動着陸などのフェールセーフ機能を使う。夜間・目視外は自動操縦 |
| 安全確保 | 補助者の配置などの立入管理、第三者の上空を飛ばさない、5m/s以上の突風などでは中止、学校・病院・鉄道・高圧線などの付近では飛ばさない、標準マニュアルにもとづく飛行マニュアル、25kg以上は第三者賠償責任保険 |
出典:国土交通省 航空局「飛行の方法に係る承認が不要な飛行の取扱い」(令和8年3月23日制定)。ここに挙げたのは主な要件です。実際に使う前に、必ず原文で全部の要件を確認してください。
承認が不要になっても、特定飛行であることは変わらないため、飛行計画の通報と飛行日誌は必要です。人口集中地区(DID)の上空で散布する場合は、別にその要件も満たす必要があります。教則も第5版(2026年7月14日適用)でこの取り扱いを追記しています。
手続きの流れは許可・承認・通報の違い、飛行計画の通報は飛行計画の通報の手順、機体登録はDIPS2.0で機体登録をする手順をご覧ください。
使える農薬のルール(農薬取締法)
| 農薬の使用方法の表示 | ドローンで使えるか |
|---|---|
| 「無人航空機による散布」など | 使える(ドローン向けの高い濃度・少ない量での散布が認められている) |
| 使用方法の制限がなく、希釈倍数・使用量を守れる農薬 | 守れる範囲で使える |
| 「空中散布」だけ | 使えない |
希釈倍数を登録より濃くするなど、登録の範囲を超える使い方はできません。ドローンで使える農薬は、農林水産省の「ドローンで使用可能な農薬」のページで案内されています。
よくある迷いポイント:「散布計画を農林水産省に出さないといけない?」
農林水産省のQ&Aでは、農林水産省への散布計画の提出は不要とされています。ただし、航空法の飛行計画の通報は必要です。また、都道府県によっては独自に散布計画の提出を求めている場合があります(任意の取り組み)。散布する地域の都道府県の農薬の担当部署に確認してください。
散布のときに守ること
- 事前の情報提供:周辺に学校、病院、家屋、養蜂家の巣箱、有機農業のほ場などがある場合、散布の日時・目的・農薬の種類・連絡先などを事前に知らせる
- 記録:農薬を使った日時・場所・作物・農薬の種類・使用量などを帳簿に記録するよう努める
- 安全ガイドライン:農林水産省の「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」(令和元年7月30日)を参考にする
事故が起きたときの報告先
| 事故の種類 | 報告先 |
|---|---|
| 農薬の飛散・流出など | 散布した区域がある都道府県の農薬指導部局(ガイドラインの事故報告書) |
| 人の重傷、第三者の物件の損壊など(航空法上の事故) | 許可・承認をした地方航空局など。原則としてDIPSの事故等報告機能で報告 |
けが人が出た場合は、すぐに飛行をやめ、必要な措置をとります。
仕事にする場合の進め方
- どちらの方法で飛ばすか決める:①毎回(または包括で)承認を受けて飛ばす方法と、②機体認証と技能証明をそろえて、承認不要の特例の要件を満たして飛ばす方法があります。
- 操縦技能を身につける:①では特定団体の資格は義務ではありませんが、操縦技能と飛行経歴が求められます。2025年12月18日から、申請書類の一部を省略できるのは国家資格の保有者だけです。②では機種の限定つきの技能証明が必要です。
- 散布用の機体を用意する:散布装置を備えた機体を用意します。②では機体認証を受けた機体が必要です。
- 手続きをする:①は承認を散布予定日の10開庁日前までに申請します。どちらの方法でも、飛ばす前に飛行計画を通報します。
- 使う農薬と散布の方法を確認する:依頼する農家と、作物・農薬・散布の時期を確認します。
- 保険に入る:業務を対象にした賠償責任保険を検討します(ドローン保険の選び方)。
※農林水産省のQ&A(令和5年5月)には「民間講習団体の認証で申請書類の一部を省略できる」とありますが、これは2025年12月18日の改正前の内容です。
よくある質問
Q. 自分の田んぼに散布する場合も承認は必要ですか?
原則として必要です。自分の土地でも、農薬の散布は危険物の輸送・物件の投下にあたります。ただし、2026年3月23日からは、機体認証・技能証明・4m以下などの要件をすべて満たせば承認は不要です(飛行計画の通報と飛行日誌は必要)。
Q. 国家資格がないと散布できませんか?
承認を受けて散布するなら、国家資格は必須ではありません。ただし、国家資格があると申請書類の一部を省略でき、承認不要の特例を使うには国家資格(機種の限定つき)と機体認証を受けた機体が必要です。
Q. 機体を買う費用に補助はありますか?
国や自治体の補助事業の対象になる場合がありますが、内容は年度ごとに変わります。地域の農政局や都道府県・市町村の農業の担当窓口で確認してください。
参照元一覧
- 農林水産省「無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報」
- 農林水産省「無人航空機による農薬等の空中散布に関するQ&A(使用者向け)」令和5年5月
- 農林水産省「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」
- 農林水産省「ドローンで使用可能な農薬」
- 国土交通省 航空局「飛行の方法に係る承認が不要な飛行の取扱い」(令和8年3月23日制定、農薬等の空中散布)
- 国土交通省「無人航空機の飛行の安全に関する教則」第5版(令和8年7月7日公布)
- 国土交通省 航空局「無人航空機に係る規制の運用における解釈について」(係留の特例と農薬散布)
- 国土交通省「無人航空機の飛行許可・承認手続」(審査要領改正、2025年12月18日施行)


